Monthly Archives: 3月 2016

3月のスープの日

ミネストローネ

3月のスープは、今月のコラム「まかないについて」にちなみ、佐藤シェフが余った野菜を使ってまかないで作っていたという「まかないのミネストローネ」でした。
ご家庭でもミネストローネを作られる方が多いかもしれませんが、やはりシェフのスープは何かが違います。
温めて盛りつけた後にパルメザンチーズをかけるのですが、そうすることでびっくりするほど味わいが深くなりました。
今回も食材の組み合わせの力を感じました。

さらに、いそがしい厨房ではミネストローネをご飯にかけて食べたり、たまごを落として食べたりしていた、というお話を伺い、真似をするためにアトリエでもなべでごはんを炊きました。

なべ

ごはんに全部スープをかける人、少しずつスープと混ぜて食べる人と様々でした。
今回は、シェフが温泉玉子を一人にひとつずつ作って下さったので、それもスープに入れていただきました。
たまごが入るとスープは優しい味わいに変身しました。

佐藤シェフの今月のコラム 11

「まかないについて」

みなさんは「まかない」を知っていますか?まかないは、料理人がお客様のためではなく、従業員の食事としてつくる料理です。わたしはホテルで修行をはじめた最初の2年間、もう一人の新人の男性と一緒に、配属された部門にいる30人分のまかないを毎日作っていました。メニューは「ごはん、スープ、サラダやおひたし、卵料理、おかず2品」と決まっていました。当時は材料は厨房にあるものを使ってよかったのですが、何を作るかを考えるために、料理の雑誌を立ち読みしたり、母に電話で聞いたりもしました。先輩から明日は麻婆豆腐が食べたいと言われると、同僚の中華部門の人に聞いたりすることもありました。
 まかないを作ることは、食材を切ること、火の通し方、味つけの練習です。そして、失敗するという練習でもありました。わたしは麻婆豆腐を初めて作ったとき、豆板醤を入れすぎてしまい先輩に怒られました。それからしばらく作らないでいると、「なんだ?この前の失敗にびびったのか?」と言われました。こうして、失敗しても何度もチャンスは与えられます。ときには、失敗したものを年齢の近い先輩が味を直してくれたりもしました。失敗の修正の仕方も学ぶことができるのです。
 メニューとは別に、その部署のシェフのために毎日2個玉のオムレツも作りました。2個玉は3個玉より難しいのですが、できたオムレツの真ん中にシェフがナイフをいれて、とろりと卵がでてこないと、シェフはそれを食べず、ただ他の先輩に「オムレツを作ってくれ」と言いました。食べてもらえるまで、3ヶ月以上かかりました。
 今は時代が変わって、経営上や就業時間の問題、一緒にまかないを食べることが嫌がられるなどの理由でまかないを作らないところもあります。そのことは一概にどうということはできません。
 わたしは今の子どもたちは失敗を過度におそれる傾向にあるのではないかと危惧しています。本当は、失敗することが成功への最も近道だと思うのですが、様々な場所で、たくさん失敗をすることや、失敗したときの対処を学べる環境が少なくなっているのではないでしょうか?もうひとつ、情報が得やすくなっていることで、実際にできるものと勘違いしてしまっていることも多いのではないか、と思います。ふわふわでおいしそうなオムレツを作るには、どのように卵を吟味し、どのフライパンを選び、どの火加減で、どの器にどのように盛りつけるのか、ひとつひとつのプロセスを頭で理解し、体で習得していかなければいけません。そのためには時間がかかり、努力が必要なのです。それはスポーツなどと一緒です。わたし自身は当時まかないを作ることからたくさんのことを学べたことがありがたかったと思っています。
 

2月のスープの日

2月のスープ

2月27日(土)のスープは「おやつのスープ、リンゴのスープ」でした。
冷たいリンゴのクリームスープに、リンゴをアップルティーで煮たジュレを合わせていただきます。
大人はシナモンをかけて。

りんごのジュレ
これはスープに入っているジュレです

リンゴのクリームスープだけでもおいしいのですが、そこに複雑な香りのジュレが合わさると舌触り、味わいともにぐんと幅が広がります。
それは驚きであり感動です。
ジュレにはまだ充分に堅さを残すリンゴも入っていて、そのさわやかさと食感がさらにおいしさを増しています。

料理とはオーケストラのようです。

今回も薪釜のパン屋さん「麦屋」さんのリンゴとレーズンのパンを合わせていただきました。

リンゴとレーズンのパン

佐藤シェフの今月のコラム 10

「引き出しをふやす」

わたしは子どもを教育するということは「引き出しをふやす機会をたくさん与える」ということだと考えています。自分の子どもはもちろんですが、将来料理人になりたい若い人達と接することも多くあります。そういう若者には、特にいろいろなものを食べる機会をつくりたいです。若いときはお金がなくなかなか食べられないだろうけれど、同じ名前の料理でもつくり方によって味は違うということなどを知ってもらいたいと思っています。
 なぜ引き出しが多いほどいいのでしょうか?何でもできるのがいい、ということではありません。
 わたしは、ホテルオークラ、シンガポールの大使館、東京の白金台のとても高級なフレンチレストランを経て、現在地元宮城県の仙台市でオーナーシェフとして働いています。お店をだすにあたって、仙台になかったお店にしようと考えてここまでやってきました。
 でも、これから先は、その土地のその環境でしかできない空間を、地域の人たちとやっていくような場所にしたいと考えています。もちろん、お店はお客様に非日常を体験してもらう場所として存在しますが、それをその地域の老若男女全ての人が充分に味わうことのできるようなメニューやサービスはなんだろうと考えているのです。メディアは旬なもの、新しいものを常に追い求めているけれど、そういうものではなく、自分にできる、来て下さる人を思うお店とはどんなものなのかを考え続けているのです。
 夢はかなえるだけではなく、継続していくものです。なんでもそうだとおもいますが、お店をもって、その先どのように続けていくかということは、どこかから持ってきた薄っぺらい考えではとうていできるものではありません。それを考える上で助けになり、しっかり支えてくれるのは自分の経験だと思うのです。
 だから、たくさんの経験をする、つまり引き出しをふやすということがとても大切だと考えるのです。特に、子どもにとっては、それが自分の好きなことを見つけることにつながり、そしてそれを続けていく力になると信じています。