1『事故は0にできない』
木こりの山学校で一番初めに習うこと。「事故は0にできない。だからいかに事故を軽くするかを学ぶのだ。」災害や不慮の事故の経験者ほど、この言葉を理解できるのではないか。
2019 年 ガッシュ、ジェルメディウム、和紙、約80×55cm
2『第六感』
「林業は命の危険を伴う仕事だ。森の中では周りの音をきく。目のはしにうつる影をみる。人の気配を感じる。命を守るためには、第六感をはたらかせなければいけない。」五感ですら鈍りそうな暮らしの中で、常に第六感を使えという日常はすごい。
2019年 炭、石こう、パラフィン、マットメディウム、パネルに布 約90×60cm 6枚
3『依りしろの木』
自然を相手にする時、どんなに技術や機械化が進んでも、人の力ではどうしようもない部分がある。そのため、人は神様に無事を祈る。その時、神様は山そのものだったり、木が神様がやどる依り代となったりする。あちらの地域では二股にわかれた杉が、こちらの地域では三股にわかれた杉が、祈りの対象となっている。
2019年 炭、石こう、パラフィン、マットメディウム、パネルに布 約182.0×60.0cm
4『森のはじまり』
日本の国土は放っておけば全て森に変わる。一年草が咲き、次の年には越年草が勝ち、3年目には多年草に覆われる。10年後には最初の低木がはえ、50年後には成長の早い松などが実をつける。そうなるとリスやネズミや鳥が出入りするようになり、それらが運んだ種でシイやカシの高木が芽を出す。やがて200年後には、その土地に合った木、東北では落葉樹が安定した森を作るのだ。2年前に更地になったギャラリー前の空き地でも森への変化が始まっている。
2019年 ガッシュ、紙 38.0×44.0cm
5『極相林(きょくそうりん)』
森の中で日光を争って勝ち残った木々たち。それ以上大きく木々の構成が変化しない森の最終型を、極相林という。安定した森のその中でも、生命は繰り返される。人間の社会も成熟し、極相に至るときがあるのだろうか?
2019年 糸、マットメディウム、布 約34×34cm
6『二酸化炭素』
温暖化の原因として世界的に問題とされている二酸化炭素は数値として換算されている。木を燃やした時にでる二酸化炭素は再び木に吸収されると計算されるため、±0となる。木は大切なので切らない方がいい、木を燃やすと二酸化炭素が出るから良くない、などということを聞くことがあるが、若い木ほど二酸化炭素の吸収率は大きいため、森の活用と手入れはこれからの環境には重要だ。
2019年 油彩、パネルに布 60.0×60.0cm
7『木を思い通りに切り倒す』
この木は生え方や枝ぶりから、どちら側に倒れやすいだろうか?この木はどのように使用できるだろうか?木をどちら側に倒すかは、倒す場所と使い道を決めてから、木の立ち方をみて切り倒す方法を決める。一本も同じ条件の木はない。だから、木を思い通りに倒すためにはたくさんの知識と経験がいるのだ。規格外や想定外は自然には本来あてはまらない。
8『山へシバ刈りに』
雑木の若木をシバとよぶ。昔、人は燃料を得るために里山へシバ刈りへ行った。今は、人によって植えられ管理されたスギ林へ手入れのためにシバの刈りはらいに行く。
9『切り株の情報』
切り株からは様々な情報が読み取れる。切り倒そうとした方向や、どのような状態で切り倒せたか。だから、立地条件と合わせると木こりの技量までわかる。経験を積んだ人の目は、スキャナー並、それ以上にひとつの断面から瞬時にたくさんの情報を得ることができるのだ。
10『100年先、200年先』
人はどのくらい先のことを考えて過ごしているだろう?その森をどうしたいかを考えるときは、100年、200年先のことを想像しなければいけない。自分も、自分の子供すらも生きていないかもしれないけれど。現代の日常の速度は速いが、木こりは木の生長の速度でものを考えるのだ。
2019年 ガッシュ、紙110.0×500.0cm
11『長伐期(ちょうばっき)』
「杉は80年ぐらいで全部伐採され植林されなおしてきたが、植林とその後15年ほどの間伐などの手入れのコストを考えると、これからは森の構成を考えながら選別し主伐採をして売上を上げながら、200年ぐらいで全伐採という長伐期の方が利益が上がるのではないか。良い木は長い期間育てても太い良質な材木にする、多少問題がある木でも、少し大きくさせてからバイオマスの材料にするという選択肢もでてくる。」親方の経験から導き出された森の未来図。
2019年 炭、石こう、パラフィン、マットメディウム、パネルに布 60.0×150.0cm
12『木製燃料の採算をとる』
日本の国土の70%は森林だから、木材のエネルギー利用は可能性がある。しかし、良い木材になる木まで根こそぎバイオマス発電の燃料にしては元も子もない。木を育てるのは時間がかかるのだから、利用も同じ速度で考えなければいけない。製材できない間伐材や、皮や枝、製材の時に出る端材を余すことなく利用できるようにする。そうしてできた燃料の、工場でのボイラー利用、一般家庭での熱利用など出口をきちんと作ること。安定した需要と供給があってこそ循環は成り立つ。
2019年 落ちていた色、木工用ボンド 約130×35cm
13「ペレットストーブ」(会場風景)
木製のペレットを燃やすタイプのストーブ。煙がでず、ペレットは運搬、貯蔵もしやすいので、都市でも使いやすい。遠赤外線で、ストーブ自体や壁や床をあたためてじんわりと熱がひろがる。木製ペレットは間伐材や製材時にでる端材を利用できるため、森林の有効利用につながる。ペレットストーブ協力:株式会社建築工房零
思考の森
2018年5月〜11月まで毎月、奥会津三島町で開かれた「山学校」に参加しました。「山学校」とはチェーンソーの目立て(刃を研ぐ)からはじまり、実際に森で木の切り方を教わる本格的な木こりの学校です。そこでベテランの木こりの親方が教えてくれることは、木を切るということを超えて、どれも今の社会問題と深く関わっていました。「思考の森」とは、親方の言葉や、そこから思い巡らした13の言葉と、その言葉のイメージを平面の作品にしたものから成り立つ展示です。言葉を選ぶ際には、現代においても人間にとって自然を相手にするということは昔と変わらない部分があるということ、今の経済では利益が優先されるけれど、循環そのものを壊してまではこの先成り立たない部分があるのではないかということの二つについて表すものを総合して考えました。だから、どれか一つだけでは足りず、13の言葉は全てつながっています。
写真撮影:小岩勉